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ドライアイ

ドライアイとは?

ゴロゴロする、しょぼしょぼする、疲れやすい、かわく、しみる、などの自覚症状があればそれは「ドライアイ」かもしれません。眼(アイ)の表面(角膜や結膜)がドライになった“感じ”がすれば「ドライアイ」と呼んでよいとされているためです。また、紛らわしいことに「ドライアイ」という用語は自覚症状だけでなく、他覚所見すなわち診察時に判明する角膜の浅い傷や涙の動態に基づいた表現にも使われます。

 つまるところ、「ドライアイ」は自覚症状・他覚所見・病態・病名のどれにも使われる受け皿のとても広い便利な用語なのですが、その分多様性に富み、特定の原因がみつからないものから治療すべき他の要素が隠れているものまでを含んでいて実は奥が深いのです。

眼の表面がよいコンディションを保つ仕組み

眼の表面は適度に湿潤な状態であってこそクリアな視界と快適性を維持できます。意識には上りませんが、眼の表面の乾燥を防ぐための巧妙な仕組みが備わっています。

すなわち、

刺激や環境に応じて迅速に必要十分な量の良質な涙液が分泌される

分泌された涙液が眼球と瞼の隙間にほどよく貯留する

それが瞼によって眼球表面に均一に塗り広げられる

そして余分な涙液は涙点から排出される

 

この一連の機構がうまく機能してこそ眼球表面のコンディションが良好に保たれます。逆を言えば、この仕組みを攪乱する要素がひとつでもあれば、ドライアイの症状が生じ得るのです。

 

ドライアイ症状に対するアプローチ

ドライアイ症状に対するアプローチは、第一に取り除くべき原因がないかの探索から始まります。たとえば、ゴミやまつげが不快感の原因となっていればその除去を、膠原病の関与が疑われれば炎症の軽減や内科的評価を、涙嚢炎があれば涙道治療を、といった具合です。緑内障の点眼薬はしばしば角膜の障害を引き起こしますが、その場合はドライアイ治療薬を上乗せするというよりも使用中の緑内障点眼薬を変更するなどの対処が適切かもしれません。

 

一方で、特定の原因が見当たらず、涙液の状態が不良な場合(分泌量が少ない、性質が良くない、など)は、タイプ毎に最も適していると予測される点眼薬(後述)を選択します。なお、特定の原因があった場合でもドライアイ治療薬を併用することは当然あります。ここでのポイントは、最初にどの治療薬を選ぶかは、「これが最適だろう」との予測に基づくという点と、治療開始後すぐには効果が現れない(すぐに諦めてはもったいない)という点です。治療を始めて、予測通り治療が効いているか、満足が得られているか、を検証し、必要に応じて治療を最適化するという作業が重要です。

 

ドライアイの治療薬

点眼薬

主成分の異なる複数の治療薬(ジクアホソル、レバミピド、ヒアルロン酸、人工涙液)が存在し、それぞれの特性に応じた適切な使い分けが必要です。これらに副腎皮質ステロイドを含有する点眼液を組み合わせることもあります。このうち一部の治療薬は、単に眼の表面に水気を増やすだけではなく、眼球表面の細胞に働きかけて涙液の成分の分泌を促す作用をもつとされます。かわくのならば点眼液をどんどん眼の表面に垂らせばよさそうなものですが、やみくもに点眼すると逆効果です。

「ドライアイの症状があるならこの薬」、という単純な対応では不十分なことが多く、まずは用法・用量を守り、それでも改善しない場合は治療方針を再考する、という作業がやはり重要です。初めから最適な組み合わせにめぐりあえるとは限らないのが実情です。

“自己血清”点眼液

血液中の成分が角膜の治療に有効であるケースがあり、採取した自分の血液から血清を抽出しこれを希釈して点眼液を作成することもあります。

眼軟膏

特定のタイプの角膜障害においては、角膜が乾燥することを防ぐことが重要であり、眼軟膏とよばれる軟膏を使用することもあります。この場合、軟膏は「塗布」ではなく「点入」と言って眼球の表面に行きわたるように用います。なお、角膜に直接自分で安全に軟膏を塗ることはまず不可能なので、下の瞼を引っ張り下げてその縁にのせることをおすすめしています。

涙点プラグ

涙の分泌が極端に少ない場合、眼球表面の乾燥な持続し、悪循環に陥ります。少しでも水気を供給するために点眼液を頻回に点眼するのも手ですが、性質の面で自分の涙液に勝るものはないことと、自律的に分泌されない(必要なときに絶えず供給されていない)ことから、やはり点眼だけでの対応には限界があります。そんなときに使うのが涙点プラグです。「涙点」は目頭にあり、涙液を排出するいわば排水口にあたります。左右上下あわせて4か所あり、これらのうちいくつかまたはすべてを塞ぐことで涙液が排出される量を減らし、眼の表面に留まる量を増やすことを狙います。涙点を塞ぐための“フタ”に相当するのがシリコン製の涙点プラグです。涙点プラグは小さいため挿入していることは傍目にはわかりません。涙点プラグを挿入する時の痛みはほとんどなく、糸で縫い付けることもないので出血はしません。挿入してみたものの、逆に涙が溢れて困るようになった場合は、プラグを抜くことも可能です。

コラーゲン涙点プラグ

 涙点プラグと同じ目的で涙液の排出量減少を目指すもう一つの製品がコラーゲンプラグです。自然硬化するコラーゲンを涙点から注入し、涙道の流れをブロックすることを狙います。コラーゲンは分解されるため、2~3か月程度で効果も消失しますが、シリコン製の涙点プラグが挿入できない場合にも選択可能です。

 

併存する疾患の治療の重要性

眼の不快感や角膜の障害の直接の原因となっている疾患が特定できれば、これを取り除くことが「ドライアイ症状」の緩和につながります。翼状片や異物などはわかりやすい例です。その他にも、シェーグレン症候群や関節リウマチなどの膠原病に伴う炎症性疾患や、甲状腺機能障害が角膜や結膜に悪影響を与えていることもあり、その場合は炎症のコントロールも併せて行う必要が生じます。さらに、鼻涙管閉塞症、結膜炎、結膜弛緩症、眼瞼下垂症、眼瞼痙攣などもドライアイ症状・ドライアイ所見を引き起こし得ます。これらのうち対処できるものについては原因を取り除くのがベストです。ただし、それには点眼液による治療だけではなくより侵襲性の高い処置や手術などを要することもあるため、治療方針についてはよく相談した上で決めること重要です。

眼瞼が原因のドライアイ

瞼の裏側(結膜側)は眼球と直接接しており、涙液を角膜に塗り広げるという重要な機構を有します。そのため、瞼に異常がある場合も二次的に角膜に影響が生じます。代表例が瞼の縁の炎症であり、マイボーム腺関連疾患と呼ばれます。これはマイボームという名の脂質を分泌する構造に閉塞が生じるなどして炎症が起きたもので、瞼の環境を整える治療が必要になります。分泌物が瞼や睫毛の周囲にこびりついていると炎症が助長されるため、これを洗い流すことは重要です。脂質を多分に含んだ分泌物の洗浄にはやはり石鹸の力が必要です。その上で、軟膏や抗菌薬点眼液、ステロイド点眼液、温罨法、時に内服治療などを組み合わせて管理を行います。

近年、このタイプのドライアイに対する光治療(IPL)の有効性が注目されています。

IPL

特殊な光を短時間皮膚の上から照射することで、皮膚の深部に存在する構造物に働きかけて治療効果を引き出す手法です。光の照射時間や波長をうまくコントロールすることで、正常な組織へのダメージを抑えつつ作用させたい標的に選択的にエネルギーを届けることができるという特徴があります。この手法は皮膚科領域において皮膚の色素を減らす治療として既に広く普及しています。近年、同様の手法が眼科領域でも応用されるようになり、皮膚の表面から照射した光が、皮膚の深部にある脂質(マイボーム)やそれに関連した構造(マイボーム腺)に作用することで眼瞼のコンディション改善が見込めます。IPLは安全性が高い反面、少なくとも2回以上実施しないと効果を実感しにくいとされ、他のドライアイ治療と同様に根気が必要ですが、これまで対処に難渋していた眼瞼に起因するドライアイの新たな治療手段として期待されています。当院でも2023年にこの治療を導入しました。

 

さいごに

お伝えしたかった一番のポイントは、ドライアイ症状の成因が人それぞれ、かつその時々である、ということです。状態は生活スタイル、年齢、環境、季節などによって刻一刻とうつりゆくもので、年中一定ということはあまりありません。例えば、湿度はドライアイ症状の程度と密接に関連していますが、その湿度は季節や空調によって大きく変動しますので、あわせて症状も変動するでしょう。要するに、なぜ今ドライアイ症状があるのか、なぜ今角膜の傷が生じているか、を考えて治療戦略を練ることが重要で、治療を開始したあとも症状や所見に応じてその都度治療を最適化することでこそ効果も期待できるのです。ドライアイのケアは一朝一夕には完結しませんが、じっくり取り組みたいところです。

 

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